第1段、秋月スペアナキットの性能を上げよ!
(Ver1.0修正版)
Ver1.0からVer1.1への変更点
SPECTRUMのスペアナ Ver.1.1では、秋月のスペアナキットの性能アップバージョンです。秋月スペアナキットはオシロスコープのアダプタ方式ですので、当バージョンはオシロスコープに接続して観測するようになっています。したがって、オシロスコープがなければ使えません。簡易的ではありますが、スペアナの動作原理を学ぶには最適な回路と思います。秋月スペアナキットの性能を向上させるテクニックを修得すれば、これが狭帯域版スペアナ設計の布石となっていきます。秋月スペアナからの改良点(本機の特長)は以下のようになっています。
回路構成(ブロック設計)
スペアナの設計にあたり、基本的な回路ブロックから連載して、ご紹介いたします。第1段は、秋月のスペアナキットの性能を上げるという目的で、スペアナの簡易バージョンとして設計します。図1にブロック構成図を書きましたので見てください。
主なブロック構成
(1)UPコンバーター
ミキサー(部品名:TUF-2)と、局部周波数を600MHzに固定したVCO(部品名:POS535)の2つの部品により構成されるUPコンバーターは、0〜500MHzの入力信号を、IF信号として600MHz〜1100MHzへ周波数を変換します。
(2)DOWNコンバーター
ミキサー(部品名:TUF-2)と、局部周波数可変のVCO(部品名:POS1025)の2つの部品により構成されるDOWNコンバーターは、IF信号の600MHz〜1100MHzを、一気に低周波455kHzの領域まで周波数を変換します。
(3)フィルタ回路ブロック
フィルタは、手に入りやすくしかも安価な455kHzのセラミック・フィルターが使用できます。また、増幅回路はLM6365などのOPアンプを使えば簡単に455kHzの信号レベルを検波できる段階まで増幅します。
(4)検波回路ブロック
TVチューナーなどという、そんな高級な回路は必要ありません。OPアンプとダイオードを組み合わせた簡単な半波整流回路とコンデンサで検波回路構成が出来てしまいます。信号レベル表示は、概ねリニア表示です。
(5)掃引信号発生回路
スペアナキットの掃引信号発生回路は、ちょっとお粗末です。性能がよく安定した回路構成とすべきところです。
(6)ディスプレイ
とりあえず、オシロスコープ表示が簡単です。X軸として掃引信号発生回路からの信号をオシロのトリガへ入力し、Y軸として検波回路からの信号を接続します。
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図1. SPECTRUM Ver.1.1(秋月スペアナキット性能アップバージョン)のブロック図![]() |
回路図を各ブロック単位に分けて解説していきます。
UPコンバータ回路部
図2にUPコンバータ回路部を示します。ミキサー(部品名:TUF-2)と、局部周波数を600MHzに固定したVCO(部品名:POS−535)の部品により構成されるUPコンバーターは、0〜500MHzの入力信号を、IF信号として600MHz〜1100MHzへ周波数を変換します。LM317による定電圧回路は、POS−535の周波数を安定にするために用いられています。POS−535の特性から約19.2Vで600MHzになります。LM317のVOUT〜ADJ端子間の電圧は、1.25Vと一定になっています。したがって、150Ωの抵抗に流れる電流は、I=1.25/150=8.3mAとなります。ADJ端子を流れる電流は、100μA程度ですので、2kΩと200Ωの可変抵抗を流れる電流は、約8.4mAになります。よってVOUTは、1.25V+8.4mA×(2kΩ〜2.2kΩ)となり、可変抵抗の値により、18V〜19.7V程度の調整ができます。POS−535のコントロール電圧の最大定格は20Vですので、20V以上の電圧は加えないでください。
スペアナの信号はローパスフィルタPLP550(550MHzローパスフィルタ)に入力し、ミキサ部に0〜約500MHzまでの信号を通します。ミキサ部(DBM)の原理上、−20dBm以上の信号では、直接RF−INに接続するとスプリアスが増加しますので、RF−INに10dB、20dBあるいは30dBといったアッテネータ(50Ω系)を介して信号を減衰させてから入力してください。
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図2. UPコンバータ回路部![]() |
DOWNコンバータ回路部
図3にDOWNコンバータ回路部を示します。ミキサー(部品名:TUF-2)と、発振周波数可変のVCO(部品名:POS−1025)の部品により構成されるDOWNコンバーターは、アップコンバータのIF信号(600MHz〜1100MHz)をフィルタ周波数の455kHzに変換します。ダウンコンバータの掃引信号Vsは、掃引信号発生回路により約0.5V〜18Vの電圧が入力され、約600MHz〜約1100MHz相当に掃引されます。
UPコンバータからの信号はハイパスフィルタPHP500(500MHzハイパスフィルタ)に入力し、ミキサ部に600MHz〜約1.1GHzまでの信号を通します。一方、UPコンバータを通さずにスペアナの入力信号を直接接続することで、600MHz〜約1.1GHzのスペクトラムが観測できます。ただし、アップコンバータからの信号と切り替えるスイッチを付けるか、外部コネクタで差し替える必要があります。ミキサ部(DBM)の原理上、−20dBm以上の600MHz〜約1.1GHzのスペクトラムを観測するときは、アッテネータ(50Ω系)を介して信号を減衰させてから入力してください。
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図3. DOWNコンバータ回路部![]() |
掃引信号発生回路部
図4に掃引信号発生回路部のノコギリ波発生回路を示します。OPアンプ2個を使用し、OP1のコンパレータと、OP2の積分回路を組み合わせて構成されます。OP1のコンパレータ出力Vaでは方形波が得られ、オシロのY軸をコントロールします。コンパレータで得られた方形波は、OP2の積分回路で三角波(ノコギリ波)にします。発振周波数は、f=1/(4CoRo)になります。ここで、Coはロータリースイッチにより、4種類のコンデンサを選べるようにして発振周波数を選択します。RoはコンデンサCoの充放電用の抵抗であり、10kΩと可変抵抗器100kΩで構成します。この合成抵抗をダイオードで切り替える方式により、デューティ比を変化させることができます。可変抵抗器が中央にセットされている場合に、デューティ比が1:1となり、積分抵抗は50kΩ+10kΩ=60kΩ、Co=0.22μFのとき約20Hz程度、0.047μFで約80Hz程度に設定されます。コンデンサCoの種類はセラミックコンデンサでも構いませんが、なるべくフィルム・コンデンサやスチロール・コンデンサなど温度特性のよいものを推奨します。発振波形の振幅は5.1Vの2つのツェナーダイオードで一定に保たれます。5V程度のツェナーダイオードは、温度特性がよいのですが、2つの電圧特性が揃っていれば入手可能な電圧のもので構いません。OP1〜8のOPアンプは汎用品で可。
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図4. ノコギリ波発生回路と、その出力電圧波形 |
V1端子ですが、通常GNDに接続すると波形が0Vを中心に正負対称に出力されますので、ここは約10Vの定電圧電源回路に接続します。Vcの出力電圧波形を見るように約10V程度「ゲタ」を履かせて持ち上げて、正側出力としています。図5にツェナーダイオードを用いた定電圧回路を示します。5.1Vのツェナーダイオードを直列に接続して、約10Vの電圧を発生させます。10kΩと0.1μFのコンデンサは、ツェナーダイオードで発生するノイズを除去するために付けたもので、ローパスフィルタの役目をしています。OPアンプ(OP3)は電圧フォロアを構成し、定電圧回路のインピーダンスを下げる役目をしています。
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図5.ツェナーダイオードを用いた定電圧回路(正電圧) |
図6はノコギリ波発生回路で得られた波形を適正なレベルに補正します。すなわち、0V〜10Vの正確な振幅レベルにする基準掃引信号回路になります。OP4では、定電圧回路から得られた安定な電圧を適正なレベルに分圧し、電圧フォロアでインピーダンスを下げる役目をしています。OP5はノコギリ波の振幅レベルを正確に10V幅に設定します。得られた基準掃引信号(OP5の出力)は、ダウンコンバータの掃引信号回路へ供給し、また1kΩを介してオシロスコープのX軸へ接続されます。ここでオシロスコープ側に1kΩを挿入しているのは、ケース外部へ出る端子ですので(オシロスコープとの接続のため)、ショートした場合を考え、OP5に過大な電流が流れて壊れるのを防ぎます。
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図6. 基準掃引信号回路と、その出力波形 |
図7−1は、ダウンコンバータ用の掃引信号回路です。0V〜10Vの正確な基準掃引信号Vsを、VCOのコントロール電圧レベルに合わせる回路です。まず負の安定な定電圧V2が、抵抗分圧により適正なレベルに変換されます。OP6は電圧フォロアでインピーダンスを下げる役目をします。OP7は基準掃引信号(0V〜10V)をダウンコンバータの掃引信号レベルに合わせます。出力は約0.5V〜18Vで、600MHz〜1100MHz相当の掃引電圧になります。図7−1は0〜500MHz(もしくは、600MHz〜1.1GHz)の周波数帯域を観測するときの回路構成です。
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図7−1. ダウンコンバータ用の掃引信号回路(1) |
図7ー1〜図7−3のダウンコンバータ用の掃引信号回路ですが、掃引電圧のレベルや幅を変えることによって、周波数帯域を拡大・縮小して観測することもできます。図7−2の例では、OP6が基準掃引信号(0V〜10V)をダウンコンバータの掃引信号の幅に合わせています。正の安定な定電圧V1が、抵抗分圧により適正なレベルに変換され、OP7で掃引電圧のレベルを合わせています。出力は約0.5V〜3Vで、600MHz〜700MHz相当の掃引電圧になります。すなわち、図7−2は0〜100MHz(もしくは、600MHz〜700MHz)の周波数帯域を観測できます。同様に、図7−3の例では、出力は約1.3V〜1.8Vで、640MHz〜660MHz相当の掃引電圧になりますので、40〜60MHz(もしくは、640MHz〜660MHz)の周波数帯域を観測できます。このように掃引電圧のレベルや幅をOPアンプを使って自由に変えることで、周波数帯域を拡大・縮小して観測することができます。掃引回路の構成としては、掃引幅やレベルの異なる掃引信号回路を幾つか作り、それらの出力VCをロータリースイッチなどでレンジを切り替える方式が便利です。
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図7−2. ダウンコンバータ用の掃引信号回路例(2) |
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図7−3. ダウンコンバータ用の掃引信号回路例(3) |
図8は、ツェナーダイオードを用いた負の定電圧回路で、安定な電圧(V2)を供給します。10kΩと0.1μFのコンデンサは、ツェナーダイオードで発生するノイズを除去するために付けたもので、ローパスフィルタの役目をしています。OPアンプ(OP8)は電圧フォロアを構成し、定電圧回路のインピーダンスを下げる役目をしています。
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図8.ツェナーダイオードを用いた定電圧回路(負電圧) |
低周波増幅&フィルタ回路部
図9に低周波増幅&フィルタ回路部を示します。LM6365によるOPアンプ2個を使用して増幅します。各200倍(40dB)の非反転増幅回路の構成となっています。ダウンコンバータからの入力は50Ωの抵抗でインピーダンスをマッチングさせます。フィルタには、455kHzのセラミックフィルタを使いました。フィルタの入出力は1.8kΩでインピーダンスを合わせます。
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図9. 低周波増幅&フィルタ回路部![]() |
検波回路部
図10に検波回路部を示します。LM6361によるOPアンプを使用し、簡単のため反転半波整流回路を構成します。10kΩと0.1μFで平滑化し、その後10倍のOPアンプにより、オシロのレンジで見やすいレベルまで増幅します。検波回路部の出力は、オシロスコープのY軸コントロール回路へ接続します。OP9は汎用品で可。
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図10. 検波回路部![]() |
オシロ接続回路部
オシロスコープのY軸コントロール回路を図11に示します。検波回路部の出力をそのままオシロスコープのY軸に接続してしまうと、図12のように表示はしますが、帰線が見えて線が2重になってしまいます。Y軸コントロール回路では、帰線部分を−5Vにしてオシロスコープの画面上から隠します。Y軸コントロール電圧は、ノコギリ波発生回路のコンパレータ出力(OP1)から取り出して入力します。μPD5201による電子スイッチで切り替えを高速化しています。
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図11. オシロスコープのY軸コントロール回路と電子スイッチ(μPD5201) |
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図12. Y軸コントロール回路の役割 |
観測したスペクトラム波形
図13に、0〜500MHzに設定したときのスペクトラム波形を示します。掃引信号回路は、図7−1の構成です。画面左端が0MHz、右端が500MHzになっています。VCOのコントロール電圧対周波数特性が概ね直線的であるとすると、横軸は50MHz/DIVというところでしょうか。
入力には信号を入れていません。このとき0MHz付近にピークが見られていますが、これは0MHzに発生する特有のスプリアスです。GigaStのスペアナでも見られているものです。詳細はこちらへ。ライン中央(350〜400MHz付近)にも1本スプリアスが出ていることが分かります。それ以外の周波数領域には見られませんでした。秋月キットのチューナー・モジュールを使っていたときには、かなりのスプリアスに悩まされましたが、予想外にスプリアスの発生数は少ないようです。
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図13. 0〜500MHz観測スペクトラム(無入力時) |
図14に、40〜60MHzに設定したときのスペクトラム波形を示します。画面左端が約40MHz、右端が約60MHzになっています。横軸は2MHz/DIVということになります。入力にはジェネレータを接続して50MHzの入力信号を見てみました。おャッ?と思った読者がいると思います。信号源が1つなのに同一画面上に2つのスペクトラムが現れています。これがダイレクトコンバージョン方式の特徴です。プロの測定器で、同一信号のレスポンスが2カ所も現れたらユーザーからクレームがつくことでしょう。しかし、ここがプロとアマチュアの境ではないかと思われます。その辺のことを十分理解して使うことはできると思います。
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図14. 50MHz観測スペクトラム 2MHz/DIV(観測帯域幅40〜60MHz) |
また実際問題として現れるレスポンスは、フィルタの455kHz×2=910kHz離れているわけですから、図15のように掃引幅500kHzまでの狭帯域スペアナでは、2つのレスポンスが同一画面上に表示されることはありません。大きなピークの右肩に小さなピークが出ているのが分かります。これは使用したセラミック・フィルタの副共振の影響と考えられます。詳細はこちらへ
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図15. 50MHz観測スペクトラム 50kHz/DIV(観測帯域幅49.75〜50.25MHz) |
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